ずっと前に「モノカキさんに30のお題」(配布終了)のお題「涙」で書いた文章を、手直ししたものです。
ぽろぽろ、ぽろぽろ、と。
ああ、うっとうしいな。
木の葉の間を縫って落ちてくる雨もまたわずらわしい。
腹の傷はぐずぐずと疼き、血はただ手を濡らすばかりで、思考は散漫になっていく。
「泣くな、馬鹿」
「だって、だって……」
しゃくりあげるたびに、零れていくのは雨粒と似ていて、しかし比べれば酷く熱いだろう。溢れて止まらず、いつ尽きるのかと呆れもする。
不意に触れてみたくなって、腕を伸ばそうとしたが、動かなかった。もちろん血は足りなくて、指先はぴりぴりと痺れている。
まいったな。
意識は雨に溶けてそのまま、地に吸い込まれていく。そのまま――。
「泣くな」
喋ることで、遠のいた意識を我が身に押し戻す。このまま、死ぬわけにはいかない。
「お前はどこも痛くないだろう。だから、泣くな」
血まみれなのはこちらだ。泣きたいのはこちらだ。
「痛いよ」
返ってきた言葉に思わず目を見開く。
「だって、黒ちゃんは痛いでしょう。痛いのは、やだよ」
他人の痛みさえも自分のもののように感じるほどに、痛みを、知っているのか。
今度こそ、なんとか腕を伸ばし、その頭に手を置く。落ち着かせるつもりだったが、髪が赤く汚れてしまったことを後悔するはめになった。言いたい言葉も雨に溶けてしまい、ただ繰り返すだけになる。
「泣くなよ」
本当に、泣いてしまいそうだった。
雨が降っているから、きっと泣いても分からないだろう。囁いても聞こえないだろう。
「なあ、『特別』を教えてやるから、もう泣くな」
おもむろにこちらを見つめる。不思議そうに睫毛を瞬くと、たまった涙が頬を伝い――。
そして、途絶えた。
「俺のもうひとつの、名前を」




